◇ Ⅱ - ⅳ ◇
起きるのが少し遅くなってやはり少し遅い朝食を食みながらに、いつも見ている蛙が軍曹のアニメを見て、いつもならそこでチャンネルを変えていたのだけれど、まだ残っていた眠さもあってそのまま呆けていたら始まったのがそのアニメだった。
友情と努力と勝利がうたい文句の週刊少年誌で原作が連載されている作品……という程度の情報しか、普段週刊誌の類を買わない身にはなく、しかも途中から見るというような形で視聴されたその作品を、けれど次週からは欠かさず見るようになっていた。
きっかけを言えば、迷彩服の人物の話し方が食べ物を吹き出してしまうほどにツボってしまったのが、そう、きっかけと言えばきっかけだった。けれど、それはやはりきっかけでしかなくて、なんと言うか……当たり前だけれど、フィクションで、架空の話で、架空の人物たちで……そう、そんな話はよくあるものでしかなかったのに……
なぜだろうか、まっすぐである彼らの姿に、ひどく憧れたのだ。
フィクションにはよくある人物たちで、フィクションにはよくある話だなんてのは、それこそ、そういう趣味を持っている身なのだから珍しくもなかった。だけど、それでも、気づけばテレビ画面に映る姿にどうしようもなく焦がれてしまっていて、好きになってしまっていて……きっかけなんて『笑った』という、ただそれだけだったはずなのに……
「そうだ! あとで駅の写真を撮ろう! めちゃくちゃ撮ろう!」
……きっと、簡単に説明できる話ではないのだろうと思う。
『誰にとって何がなんなのか』なんてことが分からないのと同じくらいに、『自分にとって何がなんなのか』なんてことも、そう簡単に分かることではないのだ。それこそ、知らない“何か”を知ることで、些細なことに胸躍らせてしまうようになるなんて、その“何か”を知るまでは分からないままなんだろう。
――――だから、そう、これは仕方のないことだ。
自分にとって何がどういうものであるのかなんて、当たり前だけれど一般人が予見できるわけもない。きっと凄腕の占星術師にさえ全てを言い当てるなんてことは、たぶん、できないはずだ。だとすれば、より平々凡々である一般人――しかも置かれた餌に見事引っかかっている――に、こんな状況を察せられるなんてことは……まあ、うん、無理だよ。
「写真撮るの? わしがシャッター切ろうか? 駅員だけに」
「ぷふう! それ面白いです! お願いします!」
……駅名に浮かれている阿呆と、それとにこやかに話している駅員がいる。
それほど大きくない駅構内はどこか昔を思わせる造りで統一されており、夕暮れ時であることも相まってなかなか情緒のある景色を作り出していた――ただ同時に、どこか空恐ろしい空気もそこには漂っている。
駅構内、それほど大きくはないが、それほど小さいわけでもない駅だ。
駅員はもちろん、利用客も――時間帯を考えれば――少なくはないはずだろう。
けれど、いない。
誰もいやしない。
浮かれる阿呆と老人の駅員――この二人だけの姿しか大きくも小さくもない夕暮れ時の駅には、ない。少し、いや、かなり異様な光景だ。確かに情緒はあるが、情緒を上回る空恐ろしさがある。
だけど気づけなかった。
なぜか気づけなかった。
異様だと思えるはずなのに、どうしてだか気づけなかった。気づけてさえいれば、そのまま引き返して、電車に乗って、いつもの日常へと帰れたかもしれない。けれど、遅い。もう遅い。浮かれた阿呆はのん気に駅員さんに写真を撮ってもらって、やはり浮かれたままにお礼と別れを告げて駅を後にしてしまった。
もちろん、自分が選んでしまった“結果”になんか気づいているわけはない。
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