◇ Ⅷ - ⅴ ◇ ⅩⅩⅩ ◇
倒れていたヤツが身を起こしながら、首を振る。
オレの後ろから、息を呑む音が聞こえた。
そりゃあそうだ。倒したと思ったボスが復活なんて、オレも凹む。
「ああ、もういいよ。もう十分だ。結果は分かった。もう戦う気はない」
起き上がったヤツに対して、構えを再度強固にした兄さんに、ヤツは右手を前に出して、兄さんを制するようにそう呟いた。でも、兄さんだってそんな言葉に耳を貸すわけはない。構えが緩くなる事はなかった。
「はは、中々意固地だ。いや、別にいいさ。もういい。はは、最高だ」
頭でもぶつけて、気が狂っちゃったんだろうか。
「いやいや、ああ、素晴らしいな。うん、これは君の勝ちだよ笹川了平。君は素晴らしい『奇跡』を起こした『英雄』だ。流石だよ。だが、だがな駄目なんだ。“今のまま”では“それ”は意味がないんだよ」
座ったまま口を動かすヤツは、本当に戦う気がないのか、気の抜けたような表情で、つらつらと意味の分からない事を言い並べていた。
わけが分からないのは何時もの事だからいいとして、ただ、気になるのは、何かを悟った仏のような顔をしているのが、今までに無い事なもんだから、警戒せざるを得ない。
「君には分かるかい? 自分の身に起きていることが」
「黙れ、口を閉じろ。下らんことに耳を貸す気はない」
「ああ、そうだ。そうだろう。君達は事の重大さに気づいていない。気付ける訳がない。だからこそ、“だからこそ”だよ。笹川了平君――――」
ヤツの赤い眼の表情が変わり、鈍く青色に光る。
今までにない光り方に、兄さんもオレも、すぐさま身を引くけれど、瞬間的に理解しただけでは遅かった。相手は、オレ達の反射的な動きの上を行く存在だ。オレ達の動きなんかじゃ、そもそもが、対等でなんかいられる訳がなかった。
「――――っが!!」
「兄さ……っ!!」
「お兄ちゃんっ!?」
目を閉じた瞬間なんて速さじゃない。
目を開けたままで気が付いたら、だ。
気が付いたら兄さんの前には、光のような、硝子のような金色の、しかも兄さんと同じ姿形の“それ”がいて、状況を把握する前にはもう、兄さんの首元がソイツに掴まれていて、足は宙に浮いて、つまりは、首を締め上げられている状態だった。
「さあ、さて、あの状態でどれくらいの時間、彼の息が続くのか、まあ、興味もないが……君ならこの状況を、どう打開するかね、逸脱者」
「お、まえ……っ!」
何時の間にか立ち上がっていたヤツが、オレに向かって言う。
顔の微笑みと、外套に付いた埃を払っている仕草が、妙にいらつく。
「なんで……っ! なんで、オレを直接狙わないんだよっ! オレを殺したいんじゃないのかよっ! オレが嫌いなんじゃないのかよっ!」
何時もそうだ。
オレが気に食わないのであれば、直接オレを狙えばいいのに、実害をこうむっているのは、何時も何時もオレの周りにいる人達だった。並中の女生徒に、京子ちゃん、ハルちゃん、ツナ達や、兄さん、あの雲雀さんにさえも手を出した。
今回やっとオレに直接仕掛けてきたかと思ったら、結局のところ、京子ちゃんとハルちゃんは巻き込まれていて、助けに来てくれた兄さんすらも今はあの状態だ。
気に食わない。
本当に気に食わない。
わざわざオレを避けて、周りを狙うアイツが気に食わない。
そして何よりも、オレはオレ自身が一番気に食わない。
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