◆ Ⅲ - ⅴ ◆
「え、えっと、あの……ところでこの辺でフェスか何かやってるの? それってコスプレだよね。この子もさ、ほら、あの……『REBORN!』の……」
ここで変わった少年たちの空気感に、もっと過敏に反応すべきだった。
「(あれなんか怖くなった。主に不良少年が……)あ、あー、えっと、ク、クオリティ高いよねー。若いのに凄いなー……って、コスプレ関係は知り合いがやってる程度でよく分からないんだけどね。でも、それ、素人目でもすごく良く出来てるって思うよ」
どんどん不穏になる空気感(主に不良少年の)に当てられてか、焦燥は募り、とりあえず口を動かしているという状態だった。そして、その“とりあえず”動かしていた、というのが、はっきり言って、絶対的に良くなかった。
「今までいろんな人のコスプレ見てきたけど、君たちが一番だなあ。このランボくんもそうだけど……君はほら、主人公の『ツナ』……『沢田綱吉』だろう? そっちは『獄寺隼人』で『山本武』に……うん、やっぱりすごい! それだけカッコよかったら普段でも女の子に、きゃーきゃー、言われてるんじゃないか? なんかこうして並んでると、三人寄れば文殊の知恵ならぬ――」
空気が何やら不穏だ。
ならば変えて見せる。
だけど、変わらない。
だったら、ほら、もっとよいしょしたら気分良くなるかもじゃん?
苦肉の策だった。でも自信はあった。
だって褒められると嬉しいものだから――自信はあった。
でも、よく考えたら褒め言葉を使うべき場面とかではなかったのだった。
「――文殊の知恵ならぬ、ボンゴレファミリー、なんちゃって」
「テメェ一体何もんだ! どうして名前だけでなくそんなことまで知ってやがる!」
「…………んえ?」
「……まさか、テメェ、どこぞのマフィアが寄越した暗殺者じゃねぇだろうな!?」
「…………え、あん?」
気持ちとしては、年下だけど同じ作品好きならお友達になれないかな、くらいのちょっとした下心だったのだ(よく考えたらそれもそれでお巡りさんの案件だった)。しかし、たぶん、そんな成人畜生の下心がばれてしまったのだろう。『獄寺隼人』に扮する不良少年がクオリティ高く憤慨し、ものすごい存在に認定されてしまっていた。
なので、弁明。
なのに、しゃらくせえ。
「や、違くて、ちょっと仲良くなりたいなくらいで…………ていうか、名前?」
「すっとぼけてんじゃねぇぞ! 十代目のお命を狙う奴はどこのどいつだろうが、この右腕、獄寺隼人が許しやしねぇ! ――――果てろ!!」
そう叫び『獄寺隼人』にそっくりな少年は――役になり切り過ぎたのかなんなのか――懐から細長い筒状のものをいくつか取り出した――かと思えば、流れるような動作で筒についた細い糸へと煙草で火を付け、続けざま、それらを空高くへと放り投げてしまった。
……例えば、もしも、少年が本当に『獄寺隼人』その人であったなら、あの空へ放られこちらへと落ちてくる細長い筒状のあれらは、爆発物――いわゆるダイナマイトで、落ちてきてか、落ちた後にか、分からないけれど、爆発してしまうのだろう。
しかし、あくまで少年がしているのはコスプレで、おそらくあれらも小道具の類で爆発はしないはずだ。頭に当たったりしたら高さもあるし少し痛いのかもしれないけれど、なあに、ちょっと少年が役に入り込み過ぎてしまっただけだし(ものまねも似ていたし)成人畜生は気になんてしない。
それにしても、小道具もよく出来ている。
導火線の部分は本物を流用したのだろうか?
「――――危ない避けて!」
危なくない――と思っていたわけではなかった。
頭に当たったら痛いし――とか、少しは思っていた。
けれど、危機を感じていたか、と言えば答えは否で……
正直、その声がなかったらと思うと、考えただけでぞっとする。
「…………」
「……っち。上手いこと避けやがって……」
「待って、待った! 獄寺君、この人、一般人!」
「いいえ、十代目! ボンゴレの名を知っている以上、只者じゃありません! ですが、安心してください! 十代目のお命は、右腕たるこのオレが命をかけてお守りします!」
若い命を無駄にするとか、どこのきかん坊だ。
……いや、そうじゃない。今、問題にすべきなのは、少年の忠義心とか、慕っておきながら聞く耳持たないとか、そういうことではなくて、今しがた目の前で激しく爆発した細長い筒状の小道具についてなのだ。
茶髪の少年に声を掛けられるまでは『導火線がついた羊羹が降ってくるー』程度の心持ちでしかなかったというのに、一体全体どういうわけか、羊羹は爆発し、爆風は吹き荒れて、辺りにはおそらく硝煙と思われる匂いが立ち込めている。
僅かに鳴る耳鳴りも、たぶん爆発によるものなのだろうが、しかし、待て、けれど待っていただきたい。どう考えても、これはおかしい。羊羹は爆発するものではなくて、食べるものだし、そもそも導火線とか差し込んで遊ぶものでも引火するものでもない。
(……いや待て、少し落ち着こう)
どうも脳内が混乱してるようなので、まず落ち着いて状況を観察してみる。
なお残る耳鳴りと、漂うおそらく硝煙と思われる匂い。茶髪の少年は不良少年をなだめており、その少年の手には新しく取り出された細長い筒状の羊羹が数本見て取れる。黒髪の少年とアフロの子供は、いつものことなのか全く動じていない。
……ということは、つまり、これが少年たちのいつもなのか。
不良少年が爆発する羊羹を持っているのも、それを爆発させるのも、きっと彼らの日常でしかないのだろう。なるほど、だったらぽっと湧いて出た成人畜生がわざわざ騒ぐこともないし、わざわざ関わる必要もないはずだ。
それに何より、命は拾ったのだから、それだけで儲けものじゃないか。
(ああ、そういえば“十代目”とか呼ばれてたなあ……)
てっきり役に合わせて呼んでいただけだと思っていた呼称に戦慄しつつ、少年らの隙を見て、抜き足、差し足、忍び足でどうにかこうにか少年(主に不良少年)たちから距離を取る。幸いなことに、何やら使命を燃やす不良少年に気を取られて、こちらに気付いている様子は見られない。
なので、もう少し距離を……と思ったのだけれど、ああ、まいった。
忠誠心というやつが、かくも恐ろしいものだったとは知らなかった。
「…………おい」
「…………はい」
背に届く少年とは思えないような凄みを持つ声に、しなくていい返事をしてしまう。
「どこへ行く気だ」
「……え、えっと」
せめてもの抵抗で背を向けたまま言葉を探すが、そこは脆く儚い精神しか持たないオタク成人畜生だ。ひしひしと伝わる、たぶん“殺気”的なものに耐えきれるわけがなく、ついつい様子を窺わなくていいのに窺ってしまう。
そして視認する、不良に成りすました特定指定なんとか団の鋭い眼光。
いや、まあ、そりゃあ、勝てないですし、逃げるしかない。
「あーーーー! 雲雀恭弥!!」
「――――何!?」
そんなのいるわけないので普通は誰も引っかからないそれも、しかし役にのめり込みすぎた少年はその釣り針へと見事引っかかり――なぜか他の少年もかかった――鋭い視線を成人畜生から外してくれた。
正直、引っかかるとは思わなかった苦肉の策だったのだけれど、しっかり引っかかってくれたのだし、結果良ければすべていいことにして、とにかく全力でその場を後にさせていただいた。
しかし、だめだった。
火のついた忠義心は、とても怖かった。
「……テ、メェ……覚悟できてんだろうなぁっ!!」
何をどうすれば良かったのかなんて、そんなものはもう既に分からない。
それに、分かったところで起きてしまったことは無かったことにはならないだろう。
だとしたら、今、取るべき行動とは何なのか? ――なんて、そんなの決まっている。
『とりあえず、逃げる』
この一択に尽きるこわい。
* 08/??/?? * Re:16/11/27 ************** Next Story.
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