Ⅵ - 人皆旅人

 ◇ Ⅵ - ⅲ ◇

 ツナ達は漫画で見るよりも、もっと優しかったんだな、なんて事を考えながら、寝巻きから普段着へ着替える。いやまあ、二次元で見てても良い奴だとは思ってたけど、自らの身に起こるとより一層伝わると言うかね。

 ああ、そういえば、服とかどうしたものかな……洋服――ツナに借りた白地に黒英字のTシャツとカーキの長ズボン――に、着替え終わって、ふと思ったが、流石に優しさに甘えるばかりでは、いい人間関係なんぞ築けまい。しかし、こんなガキ畜生に出来る仕事と言えば、新聞配達ぐらいなわけだが。

 ……まあ、日用品ぐらいはそれで何とか出来るだろうさ。ブランド物買うわけじゃあるまいし。とにかく、感謝の意だ。感謝の意を忘れないように、日々、戦地にいる兵士の如く、己を叱咤……あっは、オタクがいきなりそれは無理です。ごめんなさ――――

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 や、もう本当すみませんでした!

 感謝の意とか、オタクの自堕落さとか、駄目なんだか、なんなんだか、まあとりあえず、重要であろう事を悶々と考えながら部屋の外へ足を踏み出したら、耳に響く絶叫。駄目オタクが背筋を凍らせるのは当然ってなもんだ。

 もっとも、すぐさま沢田家長男の声と理解して、状況を把握したのだけれど、心臓に悪すぎ……あれ? 部屋は違うけど殺し屋と一つ屋根の下って言うのは変わらな……ああ、いやいや、そんな事は捨て置いて、綱吉さんカムバック。

 好奇心のままにツナの部屋へ歩み寄って、扉へと耳を押し当てる。彼の部屋は、オレが借りてる部屋の左手側の一番奥、最も階段に近い位置にある。耳を押し当てても、なんの音も聞こえなかったので、一応のノック。

「綱吉氏? 生きてる? 生きてる? …………OK、そうか死んだか。分かった、君の事は忘れない、京子ちゃんはオレが責任を持って」

 我ながら酷い。口角がじわじわ上がっているのが、更に酷い。
 なので、思い切り開かれた扉に顔を打ち付けたのは、たぶん天誅だ。

「――――京子ちゃんは関係ないだろっ!!」

 ああ、そこなんだ、によによ。
 呼ばれて飛び出たツナの言葉に、によによ。
 してたら、思い切り叩かれたけど、言い返せないのは仕方がない。

 でも、謝罪はすべきなので、『ごめんよ。後でタコソンに八つ当たりしていいから』と、謝罪代わりに推奨。けど、『そそそ、そんな事出来る訳ないだろぉっ!』って、青い顔して返されるのは必然でした。

 オレもちょっと想像して怖くなったからね。無論そんな事してダメージを受けるのは、ごっ君なのだろうけど……ツナの場合はね、オレの場合昇天してしまいますからね、末恐ろしい。

 あっちでガクブル。こっちでガクブル。そうツナと扉の前でダブルガクブルしてたら『チャオっす』って、ツナの後ろから黒尽くめベイビィ――リボーンが登場。

「ちゃおっす。旦那またツナに襲撃ですか? その内マジで死んじまいますよ。ていうか、主人公殺そう……ああ、いやいやこっちの話」

 毎日命の危機なツナを守ろうと『危ないから止めたらどうです?』的な発言。無謀なオレ。しかしソレに反応したのは、リボーンじゃなくツナ。『ほ、本当に知ってるんだっ』と、紙面で見た事のある驚き顔。

「うん知ってる。そりゃもう有名ですから」

 と、言いはしない。
 ツナ達には昨夜、帰る途中で話してある。

 “ツナ達の事は、ある程度知っている”と。

 でも漫画の事は言わなかった。
 だって、なんかイヤだったから。

『君達は、オレの世界では漫画だったんだ』

 なんて、なんか言いたくなかった。
 リボーンには心読まれてバレてるだろうけど……。


 漫画の事を考えながら『信じてなかったのかツナ』って言えば、ちょっと焦るツナ。紙の中で見たツナと、面白おかしく話してる。今は、コレだけで良い。余計な事は考えない。何よりも考え出したら気が滅入るに違いない。

 昨夜、寝る前に一応、自分の生きてきた世界との連絡は取れまいか、と携帯を弄ってはみた。電話にメールに、とにかく、携帯に登録されている全ての番号、アドレスに連絡を試みた。だが悲しいかな案の定、電話は繋がらない、メールも届かない。そういった現実が突きつけられるだけに終わった。

 なのでオレは“今”を生きようと思った。

 今、目の前で起きてる事を、感じて、生きて、皆と一緒に笑ったり、もしくは泣いたり。とりあえず今は、それだけの些細な幸せを満喫しておこうと思う。『帰れる帰れない』の理由を突き詰められる程の知識を持っている訳でもないですしね。

 好きなものに囲まれて生きてるんだから、悪くはないさ。

 そして、幸せの源たる彼らと、ちょっと普通とはかけ離れた朝を過ごした後、ツナは迎えに来た山さんと従者――もといごっ君達と共に学校へ。

 ちなみにオレ、その前に、ちょっと守護者ーズと絡ませていただいた。
 なんたる、幸せ。

「山さんごっ君おはよう!」

 迎えに来た二人へ、そう挨拶すれば、ごっ君に『その呼び方やめろ』って怒鳴られた。なので『愚かなり、一度呼び出したあだ名が、そう簡単に取れるものならば苦労はしないのだよ青二才め』と言ってやった。まあ無論、叩かれるわけなのだが。

 そして、そんなやり取りをするオレ達に山さんは、あっはは、って朝から爽やかスマイルを、これでもかと振りまいておられます。嗚呼、目が眩む。三次元イケメンになれていないオタクには辛い。と純情な青少年の眩しさに目を晦ませてたら。

「オレは、そのあだ名気に入ってるぜ。刑事みたいでカッコイイし」

 んビューティフォー。流石山さん。どこぞのタコソンとは、中身も性格も世渡り上手さも違う。なもんだから『だよね! 我ながら良いあだ名だと思うんだよね! カッコイイ山さんにぴったしと言うかさ!』なんて感じで、おだてられたオレは自我を自賛。うんうん頷いて悦に浸れば、目の前の純情少年が顔を少しだけ高潮させていた。

 なんかお前に言われると変に照れるな、だそうだ。
 野球部エースを照れさせる、思わぬカリスマ性だと?
 ……にやり。

 調子が乗りに乗ってきた時さんは『愛いヤツめ〜、照れておるの〜』とかなんとか、どっかの宇宙人王子の真似をしながらに、山さんを小突く。ファンに暗殺されそうな勢い。けど、カバンを取りに行ってたツナが戻って来たので、戯れはそこまで。我にも返って深々と謝罪。

 そして三人を見送って、さぁ仕事の時間だ。

 太陽が輝いてる時間はランボ達の相手をすると、ツナに申し出たのだ。

 ただお世話になるだけなんて、そんな事は出来ないので、せめてそれぐらいはしようと思った次第です。この見た目じゃ体の良い仕事なんて、そう簡単に貰える訳もないだろうしね。見つかるまでのお仕事さ。


 やれやれ……なんて無力な時さんだ。

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