ⅩⅢ - 人皆旅人

◆ Ⅲ - ⅳ ◆ Ⅹ ◆

 ツナの声じゃない声が聞こえて、教室の入り口に目を向ける。

 オレはごっ君の肩越しに見る形で、ごっ君は自分の背後を振り返る形で見やり、そして目にした、並中に巣くう大魔王陛下のトンファー構えた戦闘体制。背中の学ランは、きっとオーラが形を成したもの。

「何してるの早くしなよ」
「よ、よし。やれ、蹴散らせ。自慢のダイナマイトで吹っ飛ばしてやれ」

 ごっ君を回転させて魔王に対峙させた後、閣下を指差してお願い。

「……よっしゃあ!」

 さっきの言い合いの手前、やらざる終えないごっ君は、タバコを加えて火を付けに掛かる。オレも何かすべきだよね。このままじゃチキンだもんね。いやチキンなのだがね。それでも、やらねばならぬ時があるのだよ!

 GONG鳴らせ!

 閣下に身構える二人。
 それをものっ凄い後方から見守るツナ。
 ある意味これも一種の地獄絵図というやつではないだろうか。

「……なんて、ね。今は遊んでいる暇は無いんだ。わざわざこっちから出向いてあげたんだから余計な手間取らせないでくれるかい」

 そう言ったかと思ったら仕込みトンファーを流れる動作で仕舞う閣下。目の前の人物の思いがけない行動に、ダイナマイト取り出したごっ君も、それを盾にするオレも、その後ろで怯えてたツナも、皆一様に間の抜けた声をあげた。

 そんな間抜けな顔した一同を無視して、唯我独尊、風紀委員長様は後ろを振り向き、自分の片腕の名を呼ぶ。付け加えるように行動の支持。

「草壁。部外者を連行して、抵抗する様なら締め上げてでも良いよ」

 そう言われて出て来た草壁さんは、教室の中に居るオレの所までやって来て「一緒に来て貰えるか?」と、あくまで丁寧な対応をする。がしかし例え草壁さんが丁寧だろうと、オレは閣下の言葉を聞き捨てる訳にはいかない。

 彼は今なんと言ったか。
 連行だと? オレをか?
 しかも抵抗したら締め上げても良いとな?

「おいこらヒバリー! 君は一体何様だ! ……いや、みなまで言うな、分かってる、分かってはいる。けど、いきなり連行ってなんなんだよっ! そんなどこぞの犯罪者みたいな扱い、オタクで、チキンで、変質者で、特に生きている価値も無いけど生命力溢れる時さんだって、流石に黙っていないぞ!」

 あまりにも横暴過ぎる彼の行動。

 だが、それはいつもの事であろうから、せめて、理由を訊こうと思い、言葉をまくし立てた。でも、訊かなきゃ良かったかも知れない。いや結局は聞く事になるから、それならばせめて、二人――ツナとごっ君のいない所で――――

「……この状況で、解らない、と言うのならば、君の愚鈍さには感服するよ。君は今、自分の置かれている状況理解しているのかい? 君は『容疑者』なんだ、しかも最有力の――――」

『強姦未遂事件における、最も有力な加害者』

 突然すぎる彼の言葉に、言葉を失う。

 教室内が静寂する。遠くから聞こえる運動部の掛け声が耳に届いて、放課後の、中学校の教室らしい平和な雰囲気が漂っている。だが、そこに居るオレにとって、その静けさはそんな和やかなものではなく……とても重い、絶望的な静けさだった。

『オレが強姦魔の最有力候補』

 今日一日で似たような事は散々言われて来た。でも全然と言って良いほど気にはならなかった。何せオレは、やっていない、と胸張って言いきれるから。自分のやった事くらいは自分が一番分かる。だから何を言われても気にならない。


 だが、この、目の前に立つ人間の言葉は別だ。


 この並盛町における最強の男。
 絶対的な力を持って、絶対的な地位を持つ。
 横暴ながらも、その力に嘘は無い。


 だからこのその、恐怖だ。


 彼の口からああ言われると、耐え難いものがある。きっとその手の中に広がる情報網はこの町一、いや、この国一かもしれない。だからオレの心がこんなにも揺さぶられる。やっていない。やっていない筈なのに。

『オレがやったのか……?』

 無意識的に。
 自身でも分からない内に。
 もしかしたら――――

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