ⅩⅢ - 人皆旅人

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◆ Ⅲ - ⅵ ◆ Ⅹ ◆

「……どう駒を進めても、答えは『白井時』だ」

 その、何処か凛とした声に、オレ達三人は制止。

 暴れていたごっ君も、不意を突かれたのか目を見開いて固まっている。しかし、そんなオレ達の驚きは閣下の目には写っていない。彼の視線は今尚、廊下へと向けられたままだ、なので表情がうまく読み取れない。

「……『黒髪の少年』『一Aの編入生にやられた』『白井と言う名前を呼ばれていた』『身長は一五六センチ程』『瞳もまれに見る黒色』……」

 断片的な言葉を連ねる、廊下の彼。
 まるで、パズルのピースを自分の中で組み合わせているような感じ。

「……部外者は、昨日と一昨日の深夜、何をしていた?」

 次いで放たれたオレへの疑問。
 いきなり尋ねられた事に動揺したが、正直に答えを用意する。

「え、っと……お、一昨日、昨日……は、寝てたっす……」
「それを証明する人間は?」
「や……いないっす……深夜だし……」
「この辺りの地理は?」
「……? 詳しいかって事なら、まぁうん、地図は頭に叩き込んだし」
「………………」

 そこまで聞いてまた口を噤む閣下。しかし今度の沈黙は短くて、その口はすぐに開かれた。そして、その口から並べられた言葉は、先程の、パズルのピースの様な不確定要素ではなく、もっと確定的な。

「じゃあ……携帯電話は?」

 今現在、オレを犯人とさせる最も的確な情報。

 流石にそれを聞かれて動揺しない訳がないオレは、言葉を濁す。そんなオレの反応を見ているのか、見ていないのか分からないが、多分、閣下がこちらへ顔を向けた理由は、間違いなくオレの動揺に反応しての事だ。

「――――これで決まりだ。今、最も真実に近い答えは『白井時』。この携帯は暫く預かっておくよ部外者。取り戻そう、なんて考えは、起こさない方が身の為だ」

 そう言って自分の目の前にビニール袋をかざす。その中には、まごうことなきオレの携帯電話。メタリックブルーのボディで、折り畳み式の薄型で、ストラップにはコミケで買ったミクちゃんストラップが。


 ああ、そうだ。
 なんで気付かなかった。
 この男が、警察を掌握していない訳がないじゃないか。


 ……って、なんかオレ、真犯人みたいな思考回路になっているじゃないか。いやだって、もうどうしようもない立場にいる訳で、並盛の皇帝にここまで言われたんじゃ、どうにも、こうにも、為す術がない訳で、さ……うん……もう、いいか。どうせオレやってないんだしさ。この容疑もその内晴れるに決まってる。

 諦めだ。
 潔い、と言えば聞こえはいいが、逃げ、と言えば逃げなので格好悪い。

 けど、そんな諦めたオレとは打って変わってに、ずっと押し黙っていたツナがオレの代わりに閣下へと異を唱えだした。やはり、ここは、ヒーローと、モブの差というものなのだろうか。

「ちょ! 待って下さい! そんなの可笑しいすぎる! オレは絶対に信じない! 時はそんな事するはずない! もっときちんと調べて下さい雲雀さん!!」
「そんなの知らないよ」
「な……そんな! 横暴だ! いくら雲雀さんだからって……こんなのオレは許せない! やってもいないのに、やったなんて、そんなの間違ってる!!」
「事実を言っているまでだ」
「そんなの、でたらめじゃないか!」
「何故そう思う」
「信じてるから!」
「嘘だね」
「……な!?」

「君は心の何処かで思っている筈だ。彼が犯人ではないのか……ってね」

 だからそうやって必死に否定する。
 認めたくないから。信じたくないから。

 邪魔な答えを消しにかかる。

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