ⅩⅦ - 人皆旅人

◆ Ⅶ - ⅱ ◆ Ⅹ ◆

 学校を終えて、風紀委員の雑用も終えて、雲雀恭弥閣下の見張り付きバイクで帰路につく、と言う奇怪な状況に陥って、その夜道――オレと閣下は、今、並盛を騒がせている出来事『連続強姦未遂事件』の、事実と呼ぶには少しばかし、ためらわれる、だけど確かに『事実』と呼べる出来事に遭遇した――――

「――――だ……大丈夫ですよねっ? な、な、なんか、ちょっと向こう側が透けて見えちゃったりする“なに”とか出ちゃったり……しない?」
「幽霊なんて、生きた人間に比べたら可愛いものだよ」

『死んでるんだから』と、オレの前を歩く閣下は簡単に仰いますがね、如何せん、この暗い夜道ではなんの慰めにもならないと言いうか、もう『幽霊』とか、はっきり言っちゃってる上に、『幽霊出ても、生きた人間の方が怖いんだよ』って、幽霊出る前提で話してるし……くそっ! この歩く百物語!

「そんなに幽霊に成り下がりたいのかい」
「なんでもないです」

 今オレ達が歩いてるのは、閣下が女性の声を耳にした路地だ。街頭も無く、あるのは周囲の家からわずかに漏れる明かりと月明かりだけ。暗さに慣れた目でも、数メートル先の状況は理解しがたい。閣下が何でか所持していたペンライトが無かったら、ぶっちゃけチキンな時さんは引き返していたかもしれない。

 ……いやでも、真犯人捕まえられるかもしれないしな。

 そうしたらオレの容疑も晴れて、アホ馬鹿オンパレードな中傷も無くなって、ツナ達も暗い顔する事なんか無くなって……だしな。

「オレ……死ぬ気で犯人捕まえて見せます!」
「僕の背中にしがみ付いてる奴が言う台詞とは思えないね」
「うん、だって絶対沈まないであろう鉄壁のイージス艦が目の前にあるんだもの、使わない手はない。きっと、この型(雲雀号)の艦だったら一隻で空母級」
「イージス艦だなんて……咬み殺すよ」

 え!? なんで!?
 イージス艦だよ!?
 超高性能な迎撃システム搭載してる艦だよ!?
 世界でも数国しか有して無いあの艦だよ!?

「不服か!?」
「群れてる」
「そこか!?」
「軍だなんて群れの極みだ……」

 群れが嫌いなロンリーライオンめ。

 とんでもなく群れる事が嫌いな閣下の背中に群れながら、苦笑……したら殺気が閣下の背中から滲み出たので、気を逸らす為に周囲へと目を凝らす。そもそも、この暗い路地に、怖い閣下の背中に張り付いてまで来たのは、閣下の耳が捉えた声の主を探す為だ。

 今、この町で起きている事件の事が頭にあるオレ達は、路地から聞こえてきた女性の声に、もしかしたら、と、ある考えに思い至ったのだ。

『もしかしたらこの先で、誰かが襲われているのではないか?』

 単純に考えて、こんな暗い路地に女性が一人でいる訳がないだろう。案の定、閣下の耳には女性の声だけでなく、もう一人……確定出来てはいなかったけど、何者かの声が聞こえたらしい。もしも、本当に女性が襲われているならば、一刻も早くその場に向かわなくてはならないし、あわよくば、事件の真犯人を捕まえたい。

(ああ、いかんいかん! 気を引き締めねば!)

 少し逸れていた意識をしゃんとさせる。ふざけ気味だったのは、ただ単に、幽……ふごふご、とかが怖くて気を紛らわせていただけだ。けど、そんな事言ってる場合じゃないんだ。加えて言えば、閣下の恐怖から逃げてる場合でもない。現場をこの目で捉える為。そして、一連の事件を起こした真犯人を、この手で捕まえてやる為に、もっと気を引き締めろ!

「……君ってやっぱり面白いね」
「え? やだなあ、こんな時に芸人魂褒められても嬉しくねえよお〜!」
「………………っは」
「うわ吃驚した! 嘲笑だとっ? 傷つくよ、時さんだって傷つく」
「っし」
「……!」

 またも閣下の言葉に気を取られ、意識が逸れたオレだったが、すぐさま思考回路は路地に引き戻された。ちなみに、それも閣下の干渉によるものだ。

 オレの前で黙々と歩を進めていた閣下が、何やらを思ったらしく、突然立ち止まり、オレの口を塞いできた。次いで、路地を照らしていたペンライトの明かりを消し、気配を潜めてしまった。

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