◆ Ⅶ - ⅲ ◆ Ⅹ ◆
彼の視線は右手側に見える、今オレ達が歩いている路地よりも暗くて狭い小道に注がれている。オレの目も自然と、その視線を追った。そうして間もなく、そちらの方から、小さくはあるが人の声が聞こえてくるじゃあないか。低くなく、かと言って甲高い訳ではない……丁度良い? 聞き馴れた?
『これで何人目かな……?』
何の感慨も無く言い放たれた……吐き捨てられた様な言葉。
その後に聞こえてきたのは、こちらへと近づいてくる靴音。
(……こっちに来る!)
そう思って身を強張らせたら、目の前の彼がオレの口から手を離した。そして、自由になった腕へと銀色に光る鉄の棒――トンファーを携えての戦闘態勢。そんな閣下と、聞こえてくる靴音に、オレの緊張の糸は少し触れただけでも切れそうなほどに張り詰めて、なんとも言えない心境だ。
嫌な汗が頬を流れる。寒さの所為ではない鳥肌が立つ。心拍数がどんどん上がる。そんなオレをお構い無しに、小道の方からは靴音が容赦なく近づいて、大きくなってきて……
「ライト」
「……っ?」
いきなり声を掛けられた事に、驚きすらも声にならない。けれど彼はオレの状態なんて気にも留めず、用件を手短に、押し殺した声で伝える。
「奴がこっちの道に顔を出したら、その顔にライトを当てて」
そう言って後ろ手にオレへとライトを投げる閣下。そんな事をしている間にも靴音は近付いているので、何故そんな事を、と聞く前に、言われるがままの体制に入る。
……一歩。二歩。三歩。
どんどん、どんどん、近付いてくる。その音に意識を集中させている所為か、遠くからの喧騒が段々と小さく、だけど、その靴音と、自分の心音だけは、無駄に大きく聞こえる。それが酷く気持ち悪い。
そして一際大きく、靴音が辺りに聞こえたかと思えば、それに続いて、前に居る彼の靴が地面とすれる音が聞こえて――――
「ん?」
さっき言葉を吐き捨てた人間の、声。
オレ達のいる路地に小道から足が見えた瞬間、オレと閣下はほぼ同時に動いた。オレはライトをそいつの顔に。彼は得物をそいつの首に。小道から姿を現したそいつは、コンクリートの塀へと背中を打ちつけて、閣下に拘束された状態となり……閣下のトンファーが今にもそいつの首をへし折らんと、オレの持つライトで煌いて。
煌いて……そいつは微笑った。
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