ⅩⅦ - 人皆旅人

◆ Ⅶ - ⅶ ◆ Ⅹ ◆

 路地にはいくつかポリバケツやゴミ袋があって、少しだけ邪魔だったりしたが、今の状況でわざわざ避けてなどいられない。それ等の障害物は、前を走る偽オレも、それを追うオレと閣下も、申し訳ないけれど蹴散らして進ませてもらった。

 路地の先にあるのは、今いる場所よりも明るい、恐らく街頭のあるここよりも広い道だ。遠めに見るに、恐らく、道は左右へと分かれているだろう。

 前を走るアイツが、どちらかへと曲がれば、一瞬姿が消えてしまうはずだけれど……オレ達とソイツの距離はさほど離れていないので、見失う事は、まず、無いはずだ。

 そして、分かれ道に差し掛かる、偽者のオレ。

 左右、どちらに行くのか?

 見逃さない為に、前方に視線を固定する。けれど、光りの中へ飛び出したソイツは、何故かその場でオレ達の方を一瞬だけ振り返り、微笑んだ後に右へと駆け出した。わざわざ『こちらへ行くのだ』と、言っているような行動に首を傾げるが、考える間もなく、オレと閣下の体は街灯のある道へと抜け出た。

 体を捻り、アイツが走った方へと目を向ける。
 勿論、目の前にいるのは、逃げる偽オレ――――


 ――――の筈が。


 目の前にいたのは、なんでかツナ達だった。


 目の前にいる三人――ツナ、ごっ君、山さん――の姿に、オレと閣下はその場で固まる。そして、オレ達に対峙するように立つ三人も、突然飛び出てきたオレ達に驚いてか、目を見開いて固まっていた。


 互いに固まる事、数秒。


 真っ先に動いたのは、オレに背を向けて立っていた閣下だ。己の眼前で立つ三人の中心にいる人物――ツナへと歩み寄り、トンファーを持ったままの手で胸倉を掴んで質問を押し付けた。

「今、こっちに“アレ”が来なかった?」

『アレ』と、左腕で指されたのは、勿論オレだ。

「ああああ、あれ……って、と、時っ? 時ならそこにっ!」

 閣下の質問に胸倉つかまれてるツナは、怯えながらに返答。何の間違いも無い回答なのだが、この現状でその回答は閣下の機嫌を損ねる事しかなくて、ああああ、ツナ南無三。

「咬み殺すよ。アレよりももっと性質の悪い奴だ。莫迦な顔をしてこっちに走って来ただろう。惚けるなら君もこの場で咬み殺すよ」
「おいヒバリてめぇ! さっきっから聞いてりゃ訳の分かんねぇ事をベラベラと! 白井ならてめぇの後ろにいるだろうが! さっさと十代目を離しやがれ!」
「黙りなよ。今の僕に楯突くなら、この場にいる全員、原形を留めないくらいにぐちゃぐちゃにするよ」
「ちょっ! ちょっと待てよヒバリ! 落ち着けって、なっ?」

 なおもツナを離さない閣下に、固まっていたごっ君が覚醒して、ツナの開放を要求する。けれど今の閣下は、怒りに我を忘れた虫の王、ブレーキの壊れた新幹線、卒業を目指す尾崎豊。

 ……とにもかくにも、怒りで動く今の彼は止まる事などない。あまりにも閣下の様子が変な事に、流石の山さんも制止に掛かるが、これぞ鶴の一声ならぬ、獅子の一睨み。

 閣下を止めるべく、彼の傍まで行って言葉を掛けた山さんだったが、怒りの色が色濃く出た閣下の睨みに、その歪み無い顔を引きつらせて、もの凄い怯んでいた。そして止める事をやめた山さんに満足した閣下は、再度ツナへと目を向けて。

 その目に怯えるツナが居たたまれない!

「で。来たの? 来てないの?」
「だだだ、だから、時ならそこにぃっ!」
「咬 み 殺 す よ」
「だから白井ならそこにいるだろうが!!」
「お、おいヒバリ、何をそんなに怒ってんだよっ、一体何が……て……言うかお前……っ! その怪我どうしたんだ!? すっげー血出てるぜ!」
「煩いよ山本武。先に君を咬み殺そうか」
「わーわーわー! 落ち着けヒバリーっ! ツナ達何も見てないって言ってんじゃん! 嘘付いてないのはヒバリーにだって分かるだろう!?」

 もう何だか修羅場になりそうだったので、閣下の制止に参戦。
 睨まれたけど、怖かったけれども、死ぬかと思ったけれどもが!
 このままじゃ、閣下が無意味に切れそうなんで、オレは神風になる!!

「に……睨んだってオレの意思は、か、変わらんぞ!」
「………………」
「ツ、ツナ達は見てないって、い、いい、言ってんだからっ」
「………………」
「な……何がどう転んでこうなったかは、さっぱり分からないんですけれども……現にあ、アイツはいなくなったのでありましてですまして……」
「………………」

 何も言わず、オレの目を睨み据えてくる閣下超怖い。
 せっかく強気で出たのに、どんどん戦意が削られていく。

 右手に涙で顔を濡らす綱吉君をぶら下げて、両手で鈍く光るトンファーに今にも殴られそうで、顔とか首筋とかシャツとかには、さっき喰らった際に出来た傷の血飛沫が嫌な染みを作っていて……

 ……て、あ。

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