ⅩⅦ - 人皆旅人

◆ Ⅶ - ⅴ ◆ Ⅹ ◆

 口角をゆっくりと持ち上げ、見上げていると言うのに、見下すように彼を見据えて言い放たれた言葉。一言一句、子供に言い聞かせるようにゆっくりと、けれど何処か挑戦的にソイツは喋り。

 その言葉にオレは、既に聞き耳持たず。

 ただただ、目の前の魔王のオーラに胃を当てられない様、ジッとするしかなかった。て言うか、偽オレ勇者! 馬鹿! 無謀! 死ぬぞ!

「ワオ、一欠けらも面白くない冗談だね。“お前”が“部外者”? 嘘を付くならもっと語学力を付けるべきだね。笑えもしない冗談だ」
「ほお、どうしてかな? “オレ”は其処に居る“ソイツ”と、全く同じだというのに……声も、顔も、見目も……姿形の全てが同じゃあないか」

 違う違う違う違う。
 オレは閣下にそんな口聞けない。

「……同じ? ……“お前”が? ……“時”と?」

 ――――ゴッ……と。

 何かが砕ける、もの凄い音が響いたかと思ったら、左腕――先ほどまで暇を持て余していた彼の左腕が、偽オレの右側頭部へと抉り込むようにぶち込まれていた。ぶち込まれている、なんてのも、どうかしていると思いはするが、偽オレが背中を預けているコンクリートの塀を、見事にその手の得物で穿っているのだ。どうかしてるのは、閣下の方だろうよ。

 しかし、そんな状況だと言うのに、偽オレの顔には薄ら寒い笑顔が張り付いたままで、なんというか、かんというか、如何せんもうぶっちゃけ、閣下もオレも怖い……!

「つまらない……本当につまらない冗談だ。お前と時が一緒? いいや、違うね。勿論あれは、愚鈍で無能で駄目で役立たずで臆病者で、生きている価値があるのかどうかすらも疑わしい莫迦だ」

 何やら、お怒りのところを更にお怒りになられている閣下が、更に声を低くして、唸るようにオレをけなし始めた。眼なんかも一層、鈍く鋭くおなりになられて……なんで、オレけなされているのか。

 これはもう、泣くしかない。
 オレは今、泣いていい筈だ。
 閣下と偽オレの所為で、恐怖の許容量破壊されたんだから。

 そう、オレは今、泣いていい!

「か、閣下ぁ……! お、オレが一体何をし」
「――――でも」

 閣下がこちらを一瞥する。

 しかも、オレをけなして終わったかと思った言葉を続けながらにこちらを見たもんだから、ちょっと無謀な期待をしてしまった。もしかして、何かフォローをくれるのか? あの閣下の畜生がオレなんかをフォローしてくれるのか?

(そ、そんな事になったら、オ、オレ、違う意味で泣いちゃう!)

 気体に満ち満ちた涙目で閣下に視線を返す。
 そして閣下が薄く笑って、中断された言葉の続きを声に出した。

「――――でも……君の愚(ば)かさ加減に比べれば、向こうの莫迦の方が、いっそ清々しくて莫迦莫迦しくて……ふふ、ずっと、小気味いい」

 ……ああ畜生。
 馬鹿にされてんのか、そうでないのか、さっぱり分からない。

 期待してしまったオレが本当、馬鹿だった。だけれど、閣下に押さえ込まれてる“オレ”は何やらに感付いたらしく、いきなり声をあげて笑い出した。

 狂気染みた笑い声に、オレの背筋が振るえる。
 あの閣下にすらも怪訝な表情を与えていた。

 それほどに、ソイツは異様だったんだろう。

「……くくっ! くくく、あっはっはっはっは! はは……面白い、面白い事になって来るものだな! ……やはり世界を動かすのは人なのか!」
「……っ訳の分からない事を」
「分からない? 分からないのか? “白井時”の干渉で“君”は確実に変わって来ていると言うのに、“白井時”がこの世界に存在してしまった事で確実に普遍が崩れ去っているというのに?」
「……気でも狂ったか」
「……狂う? オレが? 狂う…………くく、ああ……ああ、狂っているなあ、オレは、だからこそオレは――――」
「………………」

「“白井時”は、“あんな事”に手を染めた」

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