ⅩⅩⅦ - 人皆旅人

◆ Ⅶ - ⅳ ◆ ⅩⅩ ◆

「……もう止めろよ獄寺……」


 言い争い――獄寺君が一方的に突っかかってただけだけど――をしていた二人の会話に、文字通り割って入った山本。

 二人は突然声を発した人物にに一瞬怯んで、視線を互いから山本に移す。そして山本の言葉に反応したのは、名指しされた獄寺君。


「んだよ山本っ! テメェもなんか言いてぇ事でもあんのかっ!?」


 獄寺君の声が、いつもより低い。
 それに答える山本の声も。

「別にオレは、お前の言い分にケチ付ける気はない……オレだってお前と同じだったんだからな……」
「だったら口出しすんじゃ――――」
「でもな! オレは……違うんだ……っ」
「……あ……?」


 山本の声が震えだす。
 何かに怯えるみたいに。
 逃げ出そうとする体を押し殺してるみたいに。


「おい、どういう事だ山本?」


 ディーノさんの声に山本の肩が跳ねる。

 何に怯えてるのか、山本の言おうとしてる事を聞かない事には、きっとオレ達には分からない。

 だから言葉を待つ。
 何かを知っている、何かを伝えようとしてる山本の言葉を……。



「……オレ、は、多分……こん中で、一番最初に、時があの川で泳いでる事を、知ってた……」



 大きく深呼吸して、息を吐き出すのと一緒に言い放たれた言葉。
 自分の顔を、オレ達の視線から隠すように、左の手の平で覆う山本。
 隠しきれてない顔の下半分の頬に、何か光る物が伝った気がする。


「あの日……時が腕時計無くしたっつってたあの日。オレ、家に帰る途中で時がクラスメイトのヤツともめてンの見たのな――――」


 ――――そのクラスメイトは時に嫌がらせをしていた奴で。
 多分、時の時計を奪ったのもそいつ。

 最初は時だなんて気付かなくて、そいつ等が何してるのかも分からなかった。でもその内、時が橋から落ちて。その後にクラスの奴が川に何かキラキラする物を投げて。駆け寄って、時だって気付いて、投げられたのは時の時計だって気付いて――――


「――――オレ、助けようか悩んだんだ……っ。必死んなって、何度も潜ってる時見てっ。でもオレガキだからっ。馬鹿みたいな理由並べて、その内諦めるとか勝手に決めて……っ」


 ――――見捨てて……っ。


 そこで山本の声が、言葉から嗚咽に変わる。

 必死に声を押し殺そうとしてるのか、背中を丸めて、歯を食いしばって、顔を左手の平で押さえ込んで、右手には震える握り拳。

 ディーノさんがそんな山本に、もういい、と一言呟く。

 オレも何かを言おうと頭の中で模索する。
 けど、結局はそれさえやめてしまった。


 やっぱりオレは、こんな場合に何て言っていいのか知らない。語学力が足りないとか、知識不足だとか言われるかもしれないけど。あんなに苦しそうな山本に、どんな言葉を掛けたって気休めにしかならない気がした。山本ならきっとオレが何を言ったって、ありがとう、って返してくれるだろう。


 でもそれじゃ、何かが違う気がする。


 慰めて、ありがとうは、違う。
 気遣って、ありがとうは、違う。

 大丈夫とか、泣かないでとか、悪くないとか。
 そういうんじゃない言葉が欲しいんだ。
 オレは、何度もそういう状況に陥った事があるから分かる。
 そんなんじゃ、言葉だけじゃ。
 気持ちって言うのはどうにもならない……。

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