◆ Ⅶ - ⅴ ◆ ⅩⅩ ◆
「――――時さんっ!!!!」
……と、オレが山本にどう声を掛けようか考えあぐねていた、その時。廊下側からオレ達の意識を奪うには十分過ぎる名前を呼ぶ声が聞こえた。
時。
鬼気迫る風に、その名前を呼ばれて行動しない人間は今この場には居ない。あのシャマルでさえも、コタツに入っていた体を素早くひるがえして廊下に急いでいた。
そして勿論オレ達も。
ハルの声に誘われるようにして廊下へと顔を出せば、誰もいない。声が聞こえた筈なのに疑問に思うが、冷たい風が頬を撫でた事で、いない理由に合点が行く。
顔を右に向ければ開け放たれた玄関の扉。
そして、冷たい風になびく外に居るハルの髪。
それから――――
「……時っ!!」
――――それから、ハルが支える今にも倒れそうな時の姿。
その姿を見て真っ先に駆け出したのは、さっきまで嗚咽を殺していた山本。少し赤くなった目元を擦りながら、掠れた声で時の名前を叫んで、靴も履かずに外へと飛び出す。
それに続くようにしてオレとディーノさん、シャマルも外へと駆け出し、獄寺君も少し遅れて時の元へとやってきた。
時の元へと寄れば、必死になって時を支える……いや、時の事を止めているハルの声が耳に入る。そしてオレ達へと、一緒に時を止めてくれと頼むハル。
「はひ! ツナさん手伝って下さい・・・っ! 時さんってば今からどこかに行くって言って……っ!!」
焦りながら状況を説明するハルの腕は、 時の腕に絡みついて歩かせまいとしている。けど、そんなことをしなくても今の時は、地面に膝を付いて、動けないのか、ジッとしたまま立ち上がらない。
息は荒く、顔からは汗が吹き出て、雫になったそれが首筋へと伝う。
体を冷やさない為の寝巻きも、その汗を吸っている所為で大分湿気を帯びていて、コレでは逆に体が冷えてしまう。そう思っていたら、オレと同じ事を考えたのであろうシャマルが、自分の着ていた白衣を時に被せにかかる。次いで、何処かへ行こうとする時を説得にかかるシャマル。
こんなに男に優しいシャマルは、初めて見たかもしれない……。
「おい、オレの声が聞こえるか?」
……返事はない、いや単に出来ないだけなのかもしれない。
時は尚も地面に膝を着いたままうな垂れて、必死に息をしている。
「無茶しちゃ駄目だって言っただろう? 何処に行こうとしてるのか知らないが、今はジッとベッドで寝てないと……」
そこで。
荒い呼吸だけが漏れていた時の口から、微かに聞き取れる程度の言葉が搾り出された。
「……い……」
「あん?」
「……けい……が」
「ん? 時計? 時計がどうかしたのか?」
時計、と言う言葉にシャマルが首を傾げる。
でもオレ達にはその言葉が何を意味しているのか、すぐに理解出来た。
「……とけい、が、川に……落ち……取りに……」
「時計が川に……落ちて? ……って、はぁ!? もしかして川にでも入る気だったのか!!??」
シャマルが時の言葉に驚愕して、大きな声を上げる。
それもそうだ。こんな息の荒い、高熱の風邪を引いている状態で、この寒い冬の川に入るなんて自殺行為に他ならない。
そんな時の言葉にシャマルだけじゃなく、周りで二人の様子を伺っていたオレ達も目を見開く。こんな、立っているのも辛い様な状態でも尚、時計を探すと言う時。喋るのさえ辛そうで、息をするのも辛そうで、それでも時計を探そうとして……。
時にとってあの腕時計はそんなに大事なモノのか?
そんなになってまで、手元に戻そうとして。
自分の体の方が大変なのに、時計の方を心配して……。
――――時にとってのあの時計の意味は?
当然の疑問だった。
時がココまでするのか分からないから、せめてその理由を理解したい。
理解して何が出来るかは分からないけど、兎に角今は何かを知りたい。
オレはそう思った。
でも、他の皆が思ったかは分からない。
それでも、オレの左側に立っていたディーノさんが、時の傍らに身を屈め、オレの考えていたモノと同じ疑問を時に投げかけていたのだから、少なくとも、彼――ディーノさんは時の事を理解してくれようとしているのだろう。
どうしてそこまでするのか。
時にとってあの腕時計は何のか。
替えの効くような物じゃない、あの腕時計はナンなのか。
ディーノさん特有の、重苦しくない、静かな声が時の耳に疑問を送る。
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