ⅩⅩⅦ - 人皆旅人

◆ Ⅶ - ⅶ ◆ ⅩⅩ ◆

 ……とりあえず居間には戻ったけれど、こういう時に、する事が無い、と言うのは実にやるせない。時間だけが無意味に過ぎていく感覚。無力を突きつけられている様で、無力を思い知らされている様で、きっと一生好きにはなれない時間の流れだ。

 そうして、居間に戻ってから、オレ三人は言葉を交わす事もなく、だんまり状態。

 オレはコタツで生温くなったお茶をすすって。獄寺君はオレの後ろの、廊下側のドアの傍らで、腕組んであぐらをかいてる。山本はそんな獄寺君と距離を取る様に庭へと続くガラス戸に背を預けて外に視線を流してる。


 何時も騒がしいのに、今日はもの凄く静かだ。


 外では風の音がビュービュー聞こえてくるのに、この空間だけもの凄く静かで、違う場所みたいになってる。だったら何か話せばいいんだけど、二人になんて声を掛けたら良いのか分からない。何か話しかけようと思っても、全部余計な事な気がして、声にならない。でも、話しかけるのを止めたら、さっきの時の姿が浮かび上がってきて、一気に胸が苦しくなる。

 子供みたいに大きな声で鳴いていた時。
 触れただけで壊れそうなくらい弱りきった体で、嗚咽を響かせていた。


「――――時、泣いてたね」


 声が漏れた。
 さっきまでお茶で流し込んでいた、触れまいとしていた、時の事。
 でももう、口から漏れ出たそれは、止まらない。

 机に上半身を預けた状態のまま呟けば、左側と背後から、微かに衣擦れの音が聞こえてくる。二人共やっぱり気になっているらしいのが、それだけで分かる。


「オレ……あんなに泣いてる時、初めて見たかもしれない」
「ああ……」


 独り言の様なオレの呟き。
 そんなオレの言葉に反応したのは、やっぱり山本。
 声が少し寂しそうだった。


「オレさ、時は二十歳だ、って聞いてたから、泣く事なんてない、強い大人だと思ってた」
「……あぁ……」
「でも……さ、今日の……さっきの時は見た目に合った、オレと同い年の中学生に見えた」
「…………」
「なんでだろ? 二十歳って大人じゃないのかな? 現に学校での時は、強くて、カッコイイ、大人に見えてたよオレ」


 オレの疑問に山本が答える事はなく、その疑問は室内へと霧散する。

 オレの中では、二十歳は大人だった。

 オレ達に接してくれる時は、見た目は同い年でも、やっぱり何処か大人な雰囲気を醸し出していた。家にいる時も、言葉の端々にも、ちらりちらりと、オレ達中学生とは違う何かが見て取れた。それに、二十歳と言ったら社会に認められる歳だ。お酒も煙草も許されて、子供から大人に変わる境界線。


「時……時は、大人だよな?」


 また声が零れた。
 今度は、絶対に返事が返って来よう筈もない相手に向けての、言葉。

 でも、この疑問には返答が帰って来た。無論時からではない。いつの間に帰っていたのか、オレの真正面からその返答は聞こえて来て。何日か振りに聞く、よく聞き馴染んだ子供の声。


「二十歳なんて、全然大人じゃねぇぞ」


 …………。


「うっわ! リ、リボーン!?」


 唐突にコタツの上に現れたのは、久しぶりに姿を見た気がする赤ん坊。

 黒い帽子に黒スーツ、巻いた揉み上げに、つぶらで真っ黒な瞳。帽子の上には奇妙なカメレオンと、ハタから見たら珍妙な存在だが、オレ達にとってはそれがコイツの普通。イタリアから、オレをマフィアの十代目にする為にやって来た、とか言う、凄腕の殺し屋にしてオレの家庭教師。


 リボーンだ。


 いきなり姿を見せたりボーンに、山本と獄寺君も驚いて身を引いたらしい。視界の端では山本が動いて、耳には獄寺君の首飾りのぶつかり合う音が聞こえてきた。


「時は、お前達が考えてるほど、大人なんかじゃねぇぞ」


 唐突に現れたりボーンは、驚くオレ達なんかに構わず言葉を続ける。

 時は大人じゃない。

 そう言われても、正直まだピンと来ない。今まで見てきた時は少し変だけど、振舞う様はやはり何処か大人だった。さっきのアレだって、多分弱ってたからに違いない。

 でも、リボーンは、時は大人ではないと言う。普段滅茶苦茶でも、こう言う事に関して間違った事は言わないリボーンの言う事。だからオレは、その言葉を疑問に思っても、その言葉に異を唱える事なんてなかった。けど、リボーンの言葉に声を返した人間がいる。それをしたのはオレじゃなく、オレの後ろで押し黙って座っていた人――獄寺君だった。


「……アイツが、大人じゃないって、どう言う事っすか」


 遠慮気味に、そしてやっぱり何時もより低い声で、響いてきた声。
 それに対して少し間を空けた後、獄寺君の方を見て口を開くリボーン。


「そのままの意味だぞ」
「…………?」
「獄寺、お前なら半分分かるんじゃねぇか?」
「オ……レ……?」
「時は早くに親を亡くした。そんな子供が肉親も無しでに独りになって、その子供はどう成らなきゃならねぇ?」
「な……る?」


 獄寺君に向けられる、リボーンの謎掛け。
 オレと山本は、その二人のやり取りを黙って見てるしか出来ない。

 親を早くに亡くした子供が、成らなくちゃいけないモノ?

 少しだけ考えてみるけど、オレにはその答えが分からない。けど獄寺君はリボーンの言葉が切れてから少しの間を置いて、その言葉を理解したのか、ハッとした後に、部屋へと声を響かせた。


「……オ……トナ……?」


 ……大人?


「分かってんじゃねぇか。お前なら理解出来る筈だ。生まれた世界と、父親しかいない環境。まぁ、父も姉もいる分お前の方がまだマシだけどな」


 早くに大人に成ろうとする子供は、何処か子供な部分を背負ったまま成長する。甘えたい時分に甘えられない状況。大人と対等に成らなきゃ行けない子供。時は、自分から無理やり大人になった様なもんだ。


 ……そう、か。


 だからさっきの時は、ぐちゃぐちゃに崩れ落ちたんだ。
 大切な物が無くなって、支えが無くなって、立っていられなくて。
 だから、あんな無茶をして。

 どうして気付いてやれなかったんだろう。
 一緒に暮らしてたのに、一番近くにいたのに。


 ああもう本当にオレ、ただのダメツナじゃないか――――

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