◆ Ⅶ - ⅵ ◆ ⅩⅩ ◆
「……なぁトキ? どうしてそこまでするんだ? その腕時計がそんなに大事なのか?」
時の左肩に正面から手を添えて、ゆっくりと、優しい声音で語り掛けるディーノさん。
そしてそれに答える時は、出すのが億劫な声の変わりに、何とか自由の利く首を上下にゆっくりと振る。その顔は俯いていて、表情が良く見えない。
「そうか……。じゃぁもう一つ、コレで最後だ、もう一つだけ聞きたい」
――――トキにとっての“ソレ”は、一体どういう意味があるんだ?
気遣うように、そっと紡がれた言葉は、オレだけじゃない、今この場に居る皆が最も気になっている事だろう。
時にその疑問を尋ねたディーノさんも。
今尚、時に医者らしい事をしているシャマルも。
川に行こうとする時を一番に止めた、今にも泣きそうなハルも。
時を思う余り、自分が苦しそうな山本も。
暗い表情で時に視線を送る獄寺君も。
そして、全然役に立てない、ダメツナのオレも。
皆が皆、ディーノさんの質問へと返答の様子を見せる時の言葉に耳を傾けた。
「…………み、なんだ……」
「…………?」
――――父さんと母さんが残してくれた、たった一つの形見なんだ。
……両親が死んだ後、形見になる様な物は、何にも、何にも残らなかった。二人が使用していた雑貨も、二人が着ていた服も、二人の元にあった何もかもが、自分の為に両親の友の手で金銭に替えられた。裕福じゃなかった家、老い先短い両親、そして、独り残されるであろう、幼い自分。そんな自分を思っての、父親と母親が共に託した思い。そして、二人が灰になった後、両親の知り合いだと言う、時計屋の老人に渡された腕時計。聞けばそれは、両親が自分に残してくれた物だったらしい。死んでも尚、自分の事を思ってくれる両親、そんな二人がくれたのが、あの腕時計……。
――――目から溢れてくる涙を拭う事すら忘れて、思い通りの言葉にならない声を必死に押し出して、時計の事を話した時。
嗚咽と共に吐き出されるそれは、必死で、悲痛で、切実で。今まで、こんな表情の時を見た事がないオレや山本達には、衝撃的な物だった。
いつも楽しそうに笑う様は、本当に人生を楽しんでる様な風で、クラスメイトからの嫌がらせをあしらう様は、年上なんだなと思わせるモノで、オレなんかから見たら、とても強い人間に思えたから……。
……話し終えて、ディーノさんの腕へと縋りつきながら、声を殺す事無く嗚咽を漏らす時は、全くの別人に見えてしまった。
目からは絶えず悲しい雫が零れていって、その小さいのに大きかった背中は、見えるがまま小さくて。時の体はこんなにも小さかったんだ……、と今更ながらに実感するオレがいる。
そして、話す事で体力を消耗してしまった時は、ディーノさんの腕の中に倒れ付し、そのまま意識を手放した。その後はディーノさんが抱き抱えて、部屋まで連れて行き、ハルがその後を追っていた。直後に、どうやら買出しに出掛けていたらしい母さんがオレ達の前に現れ、二階に姿を消したディーノさんとハルを追うように、そのまま時の看病に向かってしまった。シャマルもなんか、薬を処方してくる、とか言って何処かへと行ってしまって……。
オレ達……オレと山本と獄寺君の学生三人は、手持ちぶさたのまま、その場に取り残されてしまった。
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