ⅩⅩⅩⅢ - 人皆旅人

◆ Ⅲ - ⅱ ◆ ⅩⅩⅩ ◆

 ――――あれは、倒れている京子ちゃんを見つけた日だ。

 騒ぎを聞きつけた風紀委員のみんなに後を任せて――残ろうと申し出たが閣下に一蹴だ――ツナ達と家路についたのだが、まあ、事が事だ。独りにして欲しい気持ちを訴えれば、ツナ達も理解してくれて、その日は夕食もとらずに、すぐ部屋にこもった。


 ああもう、今後どう動けばいいのか。


 自分独りで、とりあえずの考えを巡らせては見たけど、引きこもったのは気を落ち着かせる為であって、答えを出す為ではなかったので、いい案なんてのは勿論浮かばずに――

『明日ツナ達に相談してみよう』

 ――そんな答えで落ち着いた。

 なんだかんだで、オレも彼らとの間に一線引いているらしかったが、この間の諸々のお陰で、今、オレと彼らとの間にはもう、その一線はない。

 だから……と言うか、気が楽と言うかな。こんな、オレの事が何もない世界で、どうしようもない現実が目の前にある訳だが、結構、余裕がある心持ちなのは大したもんだ。

 ああ、しかし。

「あんなの相手に戦闘エンカウントしたらどうしよう……」

 ベッドの上で伸びをしながら、ひとりごちる。

 部屋にこもってから制服のままベッドに飛び乗ったのだが、流石に皺になると、後々、悶々するので、今は自腹で買った黒のジャージ。この部屋も結構、馴染んできたな、なんて事を、服や雑貨を見ていると思う。

 だが、世界自体には、どうにもこうにも馴染みようがない。
 何度も何度も考えた事。この世界で生きるのに必要なもの。


 まあいわゆる『戦闘術』とでも言えばいいのか。


 あの“偽オレ”を鑑みるに、かなり異常な存在だ。姿形を変えたり、突然消えたり現れたり。もしかしたら『魔法』だなんて非科学的な事も出来るかもしれない。そんな奴が、何を思ってオレを狙っているのか分からないが……最悪、もし“それ”と戦闘紛いな事になったら、と思うと……

 オレのいた世界では、死ぬ気の炎だ、呪われた赤ん坊だ、赤ん坊の殺し屋だ、その他あげるときりがないが、とにかくそんなものは、“ありえない”存在、事象だ。漫画の世界なのだから、当然だけれど、現実としてこの世界を受け止めてしまっている以上、もう“架空”だなんて笑っていられない。

 だからオレも、この世界……ようは戦闘的な事がある世界に、何時までかは分からないが、いる以上、戦える術を持った方が、先の偽オレの事を鑑みても、いいとは思うんだけど……


“オレの世界”と“この世界”の何と壁の厚いことか。


 死ぬ気の炎でも出せればいいのだけど、そもそも、この世界で生まれていないオレにそんな機能が備わっているのか疑問だ。それに、まず、オレの世界で言う所の基本的な“戦闘術”だって、合気道だ、古武術だ、空手だ、剣道だ、銃撃だ……正直、ここじゃあ頼りなさ過ぎる。

 ……ぶっちゃけ、世界技能的に壁が厚すぎるんだよ。

 こっちの世界で、かつての独裁国家の軍が戦ってみろ。マフィアにすら勝てないに違いないだろうさ。そんな世界で、一般人のオタクたるオレがどうやって、戦闘術だなんだを身に着けろと言うのか……

「せめてもの救いは、体力ないけど運動神経だけはいい事か……」

 あと無駄知識。

「俺が家庭教師してやろうか」
「……えー……」

 悶々悶々、うんうんうんうん、唸って考えていたら、部屋に響いたあの人の声。恐ろしい申し出ではあったけど、咄嗟に拒否の言葉が出なかった辺り、オレも勇者になったもんだ。

「ていうか、どうやって入ったのよ」
「俺にとっての壁はあってないようなもんだ」
「うわあ、覗きしたい放題なこの赤ん坊R指定しちゃえばいいのに」
「何か言ったか」
「すみません。ごめんなさい」

 お馴染みの少し緑掛かった自動式拳銃を突きつけられながら、オレの世界とこの世界の壁の一つである赤ん坊から目を逸らす。本当、何時の間にそこにいたのか、仰向けに寝そべっているオレのお腹の上に、ちまっ、と座っていた。

 まあ別に、そこまではいいんだ。
 どうやって部屋入ったか、赤ん坊が喋るなとかは、もう常識だから。
 ただ、このあとがちょっと、予想外というか、んな無茶なというか。

「お前強くなりてぇんだろ」
「いや、なりたいけどさ、オレとこの世界の人達って、肉体構造的に、月とスッポン、天と地ほどの差って言うかさ……単に体鍛えるだの、武術習うだのじゃあ、どうにもこうにも、うんともすんとも」
「やってみなけりゃ分かんねぇだろ。幸いツナと違って、運動神経だけはいいみたいだからな。基本的な武術なら教え込めそうだ……頑丈さが少し心配なのは気にすんな」
「気にするわっ」

 言っといて気にするなとか!

「うるせぇ。さあ、さっさと準備しろ、イタリア行くぞ」
「………………イタ?」
「荷物はお前の何時もの装備でいいだろ。萌え萌え言ってりゃ死ぬ事はなさそうだしな。足りなけりゃ本物のメイドにでも萌えてろ」
「…………え、ちょ? メイド?」
「もう手配してあるからな、無駄にしたらぶっ飛ばすぜ」
「……あ、え、いや、あの、オレ、パスポート、ない」

 突っ込む所はそこじゃない訳だけどさ。

「安心しろ偽造パス作らせた」
「……え、それ、犯罪」
「ぐちぐちうるせぇな。殺し屋に何、血迷った事言ってんだ。これ以上、口答えしたら、気絶させて、更に箱詰めで連れて行くからな」
「いや、だって、急」
「うるせぇ――――」

 口答えしたもんだから、の結果は言うまでもない。

 あれは、倒れている京子ちゃんを見つけた日。
 次に目が覚めた時は、ヨーロッパ上空だった。無論、箱詰め。
 ツナ達に心配掛けたくないので、とリボーンに言伝を頼んだのだが。

 はは、あの人って、ああでこうだから、ふんがー、なんだよ――――

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