◆ Ⅰ - ⅲ ◆ ⅩⅩⅩ ◆
「――――あ、あのお兄さん! 少し! 少しだけでも良いから話を!」
「聞かん! しつこいぞ沢田! 白井の事は金輪際聞かん! どうしてもと言うなら極限な証拠を持って来い! それだけ言うのであれば、無論あるのだろう!?」
時間は夕方。
場所は並盛中学校、ボクシング部室の前。
時がいなくなってからというもの、お兄さんとのこの言い合いは日課みたいになっていた。もしかしたら、学校にとっても毎日の行事になってるかもしれない。
朝、昼、放課後と、教室なりボクシング部なりへと足を向けては、お兄さんに時の話を何とか聞いて貰おうと四苦八苦。最初は流石に、知らない先輩がいる教室とか、ボクシング部の人がいる部室とか、慣れない場所に行くのは少し恥ずかしかった。
でも、ダメツナだからそんな恥ずかしさ今更どうでも良いのか、それとも隣にいる、普段なら物騒かつ迷惑な事この上ない、自称、オレの右腕の彼が、こういう時にいてくれると頼りになるから、なのかは分からないけど、毎日懲りずにこうしてやってこれるのは、我ながら大した成長だと思う。
「いい加減にしろよ芝生頭! 十代目が毎日毎日、貴重な時間を浪費してテメェ如きに会いに来ていらっしゃるんだ! 少しぐらい聞く耳持とうって言う男気はねぇのか!?」
そう怒鳴り散らしたオレの隣に立つ、彼――獄寺君は、何時もオレについてお兄さんの所まで来てくれている。自称十代目――オレの右腕だからくっついて来るのは大体何時もの事なんだけど、今回は多分それだけが理由じゃない筈だ。
獄寺君も何だかんだで時の事を心配している。
確かに始終口喧嘩とか、取っ組み合いをしていた二人だけど、『喧嘩するほど仲が良い』とでも言うのか、なんだかんだで二人とも気が合うように思える。
だから、と言うか、本人は決して口には出さないけど、時の事を心配しているからだろう、こうしてオレと一緒に、時の事を敵視しているお兄さんを、オレとは違う形で説得してくれている。
ちなみに……オレのこの時間は決して貴重な時間を潰している訳じゃない。むしろ、こんなオレなんかに貴重な時間なんて物は存在しないと思うよ獄寺君……あ、自分で言っててなんか悲しくなってきた。
「ご、獄寺君! もう少し落ち着いて!」
「いいえ十代目! こういう鉄頭はこんくらいじゃねぇと頑として人の話しなんざ聞かねぇんすよ! そもそも証拠持ってこいなんて言ってるけどな! 証拠持ってきたって聞く気ねぇんじゃんねぇのか、あ゛!?」
「なんだとタコヘッド! オレはそんなに器の小さい男ではないわ! 言わせておけば好き放題言いおって! 極限にぷんすかだぞっ!!」
「なぁにが、ぷんすかだ! バッカじゃねぇのか!」
「なにおう! たこ頭の貴様に言われたくないわ!」
「んだとコラ! これはタコじゃねぇんだよ! こういう、ヘアーカットだ、ヘアーカット! 芝生頭のテメェと一緒にすんじゃねぇ!!」
「芝生ではなぁぁぁぁーーーーいっ!!」
話ずれてる!
「ふ、二人とも落ち着いて! 時関係ない話になってるから! 何時もの喧嘩になってるから! 髪形とかどうでもいいから!」
二人の言い合いに気圧されて何も言わずに傍観していたら、二人の口論が何時もの如く、どんどんあっちらけな方向へ。
体育会系と不良系の二人の間に割って入るのは、少しと言うかなんと言うか、物凄く怖かったけれど、この二人を放っておけば確実に話の内容がどうでもいい方向に行く事になるだろうと思ったので、死ぬ気を試みた。
試みたオレの勇気を返して欲しい。
「沢田は黙っていろ!!」
「テメェ十代目に向かって失礼だぞ!!」
「口を挟んだ沢田の責任だ!!」
「テメェの声がやかましいんだよ!!」
「それは貴様の方だろう!!」
「んだとこの野郎! 表出ろや!!」
「上等! 今日こそ決着を付けてやる!!」
「望む所だ!!」
どっちもどっちだし、もう外には出てるしで、喧嘩は始まり、手を出す勇気も出ずに、十分の時間が経過してしまった。何やってるんだオレ。
周りには、二人の喧嘩を見物しに来た野次馬で人垣が出来て、それが丁度リングの役割みたいになってしまい、二人に喧嘩の舞台を与えている。そんな中でのオレと言えば、野次馬たちの先頭より少し前の位置で二人の取っ組み合いを、ただひたすらに傍観しているだけ。
止めたいとは思うけど、最初の頃の口喧嘩とは違って今度は肉弾戦だ。しかも、その喧嘩をしているのが、ボクシング部の主将とイタリアマフィアの中学生。『百万円貰っても絶対に止めるものか!』と言うのがオレの心意気だ。
……駄目だ。
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