◆ Ⅰ - ⅵ ◆ ⅩⅩⅩ ◆
「ま、まあいいじゃねぇか、時が無事に帰ってきたんだし、何よりそれが一番だろ? お説教は後で……な?」
「あ、う……うん」
山本が変にどもって話しかけてきたので、どうしたのか、と思ったら、どうやらオレと時の会話が進められている間、獄寺君もお兄さんも周りのみんなも沈黙していたらしい。辺りを見渡せば奇妙に緊張しているみんなの視線がオレへと向けられていた。
そんな状況にわたわたとしているオレを見かねて、山本が小声で教えてくれた話によれば、オレは何時もと違う雰囲気で話していたそうだ。緊迫した様な、凄く真剣な顔で、若干怖いくらいの雰囲気で……なるほど、何時もと違うのは時じゃなくてオレだったみたいだ。
「それより時、本当に心配したんだぜ! 連絡も取るに取れねーし、笹川先輩は……こんなだしよ……」
「な、なんだ山本! 白井は犯人で決定ではないか! 何より京子が襲われている所をオレは見たのだ! いくらしらばっくれてもオレの目は騙せんぞ!」
「ま、まだ言ってんのかこんの芝生頭! だったら証拠持ってきやがれ! このチンチクリンがそんな大それた事するんならな、ヒバリは今頃とっくに世界制服でもやってんだよ!」
後続の二人が言葉頭でどもっていたのも多分オレの所為だろう。視線をちらちらとオレに向けながら、会話を進めていたので、嫌でも気になってしまう。
そんなに変だったのかなオレ……?
「え……何? ケンカ終わりって事……?」「じゃねぇの? なんか白井のせいでスゲェつまんねー終わり方したな」「でもちょっと面白いダメツナ見れたから儲け〜」「だよね〜。なんか超マジになっての。何時もあれぐらいマジだったら、ちょっとは冴えるのかもしれないのにね〜」
悪かったな、何時も不真面目でっ。
どうせ冴えないよっ。
獄寺君達の喧嘩の熱が時の出現によって冷めた事により野次馬達が、つまらないだの、がっかりだの、野次を飛ばし始めた。次いで、一人、また一人と、立っていた場所から離れていくみんな。
てっきり時に揶揄中傷な言葉を発すると思っていたけど、案外あっさりしているもので、興味がそがれた途端に時への関心もそがれたのか、なんの事もなく各自、帰路へとついていった。
本当にあっさりしてるもんだな。
まあ時にとってはいい事だろうけど。
「よ、良かったね時。みんな時に興味なくなったみたいだ……ってまあ、それもそれでどうかと思うけど……っていうかオレが色々言われたしっ」
「ツナは人気者だから」
「ちょ! やめろよな! 山本や獄寺君の前でそういう事言われるとすっげー立場ないんだからな!」
「あはは、ごめんごめん」
「たく……帰ってきて早々調子良いんだからなー。家帰ったらこってり絞り上げるからな。リボーンにも頼んでがっつりだ。な、山本っ」
「酷いなあ……」
困った表情で、困った、と言う言葉を発する時に苦笑を向ける。
確かに心配掛けた事には腹が立つけど、何より時が無事だったんだ、とりあえず今はそれで良いかな、と思う事にして、山本にも何か時への罰を決めて貰おう、なんて軽い気持ちで山本の方に視線を向けた。
まあ、山本は良い奴だから、きっと優しい何かに決まっているだろうけど、といい意味で期待せずに向けた視線。
そこで様子のおかしい山本に気付く。
オレよりも高い位置にある山本の顔を仰げば、焦点が一点に止まったまま動かない瞳が目に入る。声をかけたオレの方を見ようともしない山本の行動に、やっぱり違和感を覚えた。
山本は人の目をしっかりと見る人間だ。
最初は、その屈託のない綺麗な目に戸惑いはしたけど、ちゃんと目を見て話してくれると言うのは、案外嫌なものではなくて、むしろそれは人に対する真摯な行動だから、実に山本らしい行動なのだ、と理解するようになった。
けど今オレの前にいる山本は、こちらをちらりとも見ようともしない。
それに、山本の違和感はそれだけじゃない、表情もなんだか変だ。
いや勿論、女の子達が黄色い悲鳴を上げる端正なそれは変わってない。ただ、焦点に加えて、口の端も少し持ち上げて微笑んだままで、よく見れば唇のみ小刻みに震えているのが見て取れる。
……なんだ?
「や、山本どうしたの?」
声をかけても反応が無い。
「ご、獄寺君っ。山本がなんか変だよっ」
――――大丈夫っすよ十代目。野球馬鹿は何時も変っす。
……とでも返すんだろうな。そう思って獄寺君に山本の様子が変な事を問いかけてみれば、更に驚きが重なった。
獄寺君も山本と同じ様な状態になっていた。
しかもコチラは山本より酷い。
焦点が一点に、表情が固まったまま、というのは同じだけど、その端正な顔の色が普通じゃなかった。滅多に泣かない彼の瞳には少量だけれど彼にしては多い量の涙が溜まっていて、おでこには脂汗。小刻みに震えている半開きの口からは何の音もない、震えている以外に動きもない。
そこではっとした。
オレはもう一人の人間にすぐさま視線を向けた。
了平お兄さんは時にそっぽを向くようにして立っていたので、回り込むように顔を覗き込めば、やっぱり山本や獄寺君と同じ状態の顔。まさか、と思っている事を確認する為に、固まっているお兄さんの口元に手を当てれば何も感じない。感じなくてはいけない感覚、口から吐き出される空気の出入りが、全く感じられない。
――――息をしてない!?
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